アトピー奮闘記
第15回 中和療法による皮膚炎の克服
バッファローについて、早速、生活必需品を買い揃えたり、三男が治療を受けている間、上のお兄ちゃん達2人の居場所(学校はまだ始まっていなかったので、YMCAのサマーキャンプに毎日通わせることにしました。)、いちばん下の1歳の子どもの保育所など大急ぎで探しました。こういったことは、以前に2年間アメリカに住んだ経験に助けられて、比較的スムーズに運びました。そしていよいよ7月11日、パテル先生の診療所初診の日がやってきました。先生はインド出身の女医さんであり、小児科医でありました。初日は約2時間かけて詳しい問診がありました。その時、パテル先生は、三男だけが強いアレルギー体質を獲得したのには何か原因があるはずだと、三男が生まれた時の状況を特に詳しく聞きました。私と家内の記憶は、三男が生まれたはるか昔にフラッシュバックしていきました。彼はほとんど予定日どおり、何事もなく生まれて、家内の実家に帰ってきました。家はその時、改築中でありましたので、スペースがあまりなく、生まれたばかりの三男はベビーベッド代わりに、押入れの中に寝かされたのでした。8月、夏の押入れの中には、ホコリ、ダニ、カビ、はては殺虫剤や建材から出る有機溶媒に満ち溢れていました。「それだ」とパテル先生は叫びました。三男が押入れの中に寝かされていたのは、僅かに数日間でしたが、生まれたばかりの赤ちゃんの体の免疫機能は、それらの有害物によって一瞬にしてかき乱されてしまったと彼女は言うのです。「そんなばかな」と最初は思いましたが、じっくりと考えてみると、それを否定しうる根拠は何もありません。確かに、子どもや胎児は小さければ小さいほど、化学物質の影響を受けやすく、たとえ短期間の暴露でも予想もしないダメージを受けることがあるのです。また、日本で事前に行ってきた毛髪検査では、三男の毛髪中には鉛、水銀などの重金属が多量にたまっていることが明らかになっていました。もっとも、同時に行った私自身の毛髪分析の結果もほぼ同様であったので、アトピーがあるないによらず、日本人の体は気がつかないだけで、予想以上の重金属で汚染されているものと思われます。その結果をパテル先生に見せると、アレルギー、アトピーを根本的に治療するには、体に蓄積されたそれらの有害金属を抜かないといけないと言いました。さらに、体に蓄積された、鉛や水銀などの重金属を抜くためには、キレーション(EDTAやDMPSなどのキレート剤を点滴することによって、これらの金属を可溶性にして、尿から排泄させること)をする必要があると続けました。その日は、問診のあと、ビタミン、ミネラルなどのとてものみきれないほど多くのサプリメントが出されました。そして、次の日から本格的な治療が始まりました。午前中は誘発中和療法を行い、午後からは、酸素を吸いながらのサウナ(30分毎、1日に2~3回で、サウナの合間には多量のミネラルウオーターを飲まされました)とビタミン剤とキレート剤の一日毎の交互の点滴です。体にたまった重金属をキレート剤の点滴で、有機溶媒をサウナで抜くためです。アメリカのバッファローから国境を越えてカナダのトロント近くにまで行ってした血液検査の結果、三男の血液中より、ヘキサンなどの有機溶媒が検出されていたのです。そして、いよいよ念願の誘発中和療法 の始まりです。あの時の胸の高鳴りを今でも忘れることができません。まず、神経伝達物質でもあり、かゆみを起こすもとになるヒスタミンとセロトニンの中和から始まり、1日数個ずつハウスダスト、ダニ、カビ、食物と少しずつ進んでいきました。最初のテスト液の濃度を決めるのにはかなりの経験と直感が必要です。これを誤ると予想もしない反応が出て危険であったり、中和点に行き着くまでに膨大な時間を浪費してしまいます。5の数乗倍に薄めたテスト液をカビはカビ、花粉は花粉、食物は食物で一つずつ0.5ml皮内注射していきます。10分後に膨疹や紅斑の直径を計り、また脈拍を数えて、中和点に行き着くまでテストを続けます。テスト中に鼻閉、頭痛、腹痛、咳などの症状が出現し、このとき初めて三男のこれらの不定愁訴がアレルギー反応であったことに気がつきました。中でも、一番印象的であったのは、カビのテスト中に三男が、ねちっこい性格、乱暴な性格になり、その中和が成功すると、すっと元の彼に戻ったことです。ラップ博士の言う「脳アレルギー」とはまさにこのことであったのかと気がつきました。三男は約4ヶ月間のバッファロー滞在中に147項目の中和点をもとめ、その中和液を作成してもらったのでした。また、その間に数十回にのぼるキレーションとビタミン剤の点滴、100回以上のサウナ療法をやり終えました。治療後には三男の尿中の水銀、鉛の量が明らかに低下していました。この中和液を日本へ持ち帰り、家内が毎日、まめに中和療法を行った結果、三男の皮膚の炎症は数ヶ月で見事に消失していきました。彼はそれから3年たった今、中和の注射は行っていませんが、全く軟膏類はつけずとも、つるつるの肌をしております。まるで、9年前にアメリカでつるつるになった時のように。さらに、皮膚炎だけではなく、そのとき以来、彼の頭痛、腹痛などの不定愁訴も明らかに目立たなくなりました。「彼のアトピー性皮膚炎はそろそろ自然に治る時期に来ており、たまたま中和療法の時期と重なったために、それで治ったように見えるだけだ」という人もいますが、それに本気で反論する気はありません。治療の効果は、本人と家族だけが魂の底で確信すればよいのですから。

ニューヨークで誘発中和療法を受ける三男