アレルギー編

気管支喘息(小児ぜんそく)

特に乳幼児の場合は、すぐに「気管支喘息」という診断名をつけることは難しいです。初めての発作の場合は、なおさら不可能です。最初は「ぜんそくかも知れませんね」で始まり、同じような発作を何度も何度も繰り返すことや、兄弟や家族で同じような人がいること(家族歴)、そして血液のアレルギー検査や呼吸機能検査の結果などから、最終的に診断します。乳児期に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎を発症している子どもに多いです。「カゼが治りにくい」という経験を持っている人がほとんどです。
 
でも、ここからが大切です。
 
その病名にこだわらず、とにかく「ゼイゼイ」という息苦しい発作を早く治め、そして、それを再発させないようにしましょう。それが「小児ぜんそく」を大人になるまで持ち越さず、最終的に慢性病の「気管支喘息」にしないポイントです。ぜんそくのお薬はそれを実現させるための「ツール」です。どのようなツールをどのように使っても、この目的が達成できれば「よし」とします。逆に、その診断に疑問を持ち(受け入れず)、ゼイゼイいう状態を頻繁に繰り返したり、その状態でウイルスや細菌が感染して気管支炎や肺炎を繰り返していると、だんだん発作が治りにくくなるばかりか、気管支や肺が壊れた状態で完成(器質的変化)されてしまいます。こうなると大人になってからも、定期的な病院受診が必要となります。いわゆる成人病ですね。大人の喘息は気管支や肺そのものが目で見て傷んでいることが多いのに対して、子どものぜんそくは気管支の調節がうまくいっていないだけであることが多く、治癒する可能性が高いのです。 コンピューターで例えると、大人の喘息はハード自体の故障、子どものぜんそくはソフトの問題です。ですから、小児ぜんそくの場合は、だいたい小学生になると薬が必要なくなります。それを目標として、がんばりましょう。
 
【原因】
小児ぜんそくの子どものほとんどが、アレルギー体質(乳児期に食物アレルギーかアトピー性皮膚炎で発症)を持っています。さらに、生まれつき気管支の過敏性(刺激に敏感なこと)があり、その上に空気中の汚染物質(タバコの煙やPM2.5など)に度々暴露されたり、RSウイルスなどの感染を繰り返すことによって気管支がさらに過敏になっていきます。その状態で、何かが引き金を引くと発症(ゼイゼイという発作がおこる)します。引き金はハウスダスト、ダニ、動物の毛、カビ、花粉、まれには食物などのアレルゲン、乾燥、低温、低気圧、黄砂、PM2.5などの物理化学的刺激、精神的ストレスなどによる自律神経の失調、ウイルスや細菌の感染などです。そうすると、まず気管支が収縮し、次に炎症(赤くむくむこと)が起こって、多くの痰を出します。その結果、空気の通り道である気管支が狭くなって、息をするたびにゼイゼイと息苦しくなります。そして、ぜんそく発作自体が炎症を長引かせ、気管支をさらに過敏にし、その結果さらに発作が起こりやすくなるという悪循環がおこります。
 
【症状】
発作の程度によって小発作、中発作、大発作があります。小発作はかすかにゼイゼイが聞こえる程度で、背中に耳を当てたり聴診器を使わないとよくわからず、日常生活も障害されないので、周りの人も本人も発作と気が付かないこともあります。中発作になるとはっきりゼイゼイが聞こえ、息をする度に胸がくぼみ、元気がなくなってきます。大発作になると、寝ることも出来ず、肩で呼吸し、顔は青白くなります。ただちに病院受診が必要な状態ですね。発作の頻度も重要です。すなわち、そのような発作が常に起こっている、1週間に1回程度起こる、1ヶ月に1回程度起こる、年に数回起こるなどです。それによって、使うお薬や量も変わってきます。
 
【診断】
ゼイゼイという息苦しい発作を繰り返して起します。この「繰り返す」ということがポイントです。そして、聴診器で聴診して典型的な音が確認できれば診断がつきます。時に、聴診しても肺に特有の音が聞こえないのに発作を繰り返している場合、「咳喘息」とよんだりします。聴診だけでは肺、気管支や心臓の先天的な異常、喉頭炎(クループ)、肺炎、細気管支炎、気管支異物などと紛らわしい場合がありますので、場合によっては胸のレントゲン写真や心臓のエコー検査が必要です。過去や現在アトピー性皮膚炎があったり、血液検査でIgEの値が高く、特に、ダニやハウスダストに対する特異的IgEが証明されると診断の助けになります。呼吸機能検査をすると、呼気性の呼吸困難(息を吐きにくい)がわかります。この呼吸機能検査は、治療中の状態を把握するのにも有用ですが、年長さんくらいにならないとできないのが難点です。
 
【治療】
医学の進歩によって、ぜんそくの原因や気管支の中で起っていることが徐々に解明され、それとともに治療法も随分変ってきました。治療で最も重要なことは、発作を予防すること、少なくとも、小発作のうちに治めてしまうことです。私が医師になって間もないころは、大きな発作になってしまってから大急ぎで受診をして、吸入や点滴でそれを何とかおさえこむケースもよくありました。しかし、これはよい治療とは言えないことがわかってきました。治療の目標は、発作を予防することによって気管支の炎症を抑え、気管支の過敏性を改善することです。たとえアレルギーがあっても、気管支の過敏性がなく、発作の引き金を引くものが無ければ発作は起こりません。発作が出ないと気管支の過敏性が徐々に治まり、発作のない状態が長く続けば、少しずつ薬を減量中止していくことができます。ただ、再発はありえますので、しばらくの間、薬の予備を持っておき、発作が出た時に備えておいてください。基本的に、お薬はぜんそくそのものを治すことはできません。自然にぜんそくが治ることを助けているのです。いわば、強力な防波堤です。防波堤によって波の静かな状態が維持できると、自然ときれいな海岸ができあがっていきますね。子どもは成長するので、そのことが可能となります。
 
私が医師になってすぐのころは、テオフィリン(テオドールなど)が治療の中心的な薬でした。そころが、けいれん、ふるえ、心悸亢進、頭痛などの副作用のため、ここ最近は使われることが極めて少なくなったと思います。私自身は全く使わなくなりましたが、他の薬だけで十分やっていけるので、特に必要性を感じません。それに代わって、下に述べる吸入ステロイドとロイコトリエン受容体拮抗薬の2つが、中心的な薬となりました。おそらく、医学の進歩とともに、それらも変わっていくでしょう。
 
1.吸入ステロイド
私が医師になった直後には、ひどい喘息の発作にステロイドの点滴をよく行っていましたが、ステロイドの吸入を行っていた記憶はありません。おそらく今のような優れた製剤が無かったのでしょう。吸入ステロイドが出た当初は、副作用が出ないかどうか恐る恐る使っていましたが、最近ではぜんそくと診断できると、比較的早い段階から使っています。その方が結局は使うステロイドの量が少なくて済みます。効果は非常に良く、しかも、今まで全くと言ってよいほど副作用の経験がありません。アトピー性皮膚炎などの時などに使用する外用ステロイド剤とは明らかに違うようです。吸入ステロイドを始めてから、ひどい発作で点滴や入院する人の数が、けた違いに減りました。中止できるようであれば、早めに中止しても特にリバウンドなどの問題は起こりません。吸入ステロイドは単に喘息発作を抑えるだけではなく、気管支の炎症を抑え、過敏性を治していくのです。吸入器に入れて時間をかけて吸入すると効果は抜群ですが、時間がかかるのが難点です。状況に応じて、持ち運びが便利で簡単なワンプッシュで済むタイプのものと使い分けるとよいでしょう。どちらのタイプでも、以下に述べるβ2刺激剤との併用が可能で、さらに効果が高まります。
 
2.吸入インタール(ステリネブロクロモリン)
食物アレルギーのときは内服しますが、ぜんそくの時は吸入します。気管支で起きているアレルギー反応や炎症を抑えます。吸入ステロイドと同様に、電動式の吸入器に入れて使う製剤とワンプッシュで済むタイプのものがあります。前者の方が、β2刺激剤(気管支拡張薬)と混合して吸入することもでき、効果は高まります。
 
3.ロイコトリエン受容体拮抗薬
シングレア、キプレス、オノン、プランルカストなどのことです。気管支を広げる作用と炎症を抑える作用を持ちます。ぜんそくだけではなく、アレルギー性鼻炎にも効き、鼻づまりが改善します。眠気の副作用がなく、甘く飲みやすい薬です。粉薬、ラムネのような噛める錠剤、通常の錠剤があり、年齢に応じて選択可能です。通常は数か月間毎日服用しますが、効果は早く現れるので、単発的な使用も可能です。
 
4.Th2サイトカイン阻害薬
アイピーディーという薬です。IgE抗体やインターロイキン産生抑制によって、炎症を抑える作用があります。上のロイコトリエン受容体拮抗薬が効きにくい人に有効なことがあります。ロイコトリエン受容体拮抗薬と同じく、眠気の副作用がなく、甘く飲みやすい薬です。
 
5.β2刺激剤(気管支拡張薬:メプチン、べネトリンなど)
交感神経を刺激して気管支を広げる作用を持ち、吸入は即効性があり、数分で効果が出ます。内服は吸入よりは時間がかかりますが、1時間前後で効果が出てきます。使いすぎると、ふるえや心悸亢進の副作用が出ることがあります。貼り薬(ホクナリンテープなど)は即効性はありませんが、持続性の効果があります。
 
6.去痰剤(ムコダイン、ムコソルバンなど)
痰を出しやすくします。ムコダインはのどや気管などの浅いところ、ムコソルバンは気管や気管支などの深いところの痰を出しやすくします。
 
7.漢方薬
柴朴湯、麻杏甘石湯、五虎湯、神秘湯などを単独であるいは組み合わせて使います。もちろん、上に出てきた西洋薬との併用も可能です。
 
【薬の止め方】
ぜんそくのお薬は、始める時よりもやめる時の方が難しいと思います。ぜんそくの程度や経過は、人によって様々です。また、天候や季節による影響も大きいです。すなわち、春先、梅雨時期、台風、秋口で悪化します。したがって、「今日を最後に薬をすべて止めましょう」というのは不自然な止め方です。お薬をひとつずつ、少しずつ減らしていきます。一人ひとり違うので、その都度相談して決めていきましょう。調子が良くなってくると、お薬を吸入したり内服したりするのを忘れるようになってきます。それでいいんです。急に止めずに少しずつ忘れていきましょう。お薬が切れても1か月発作が起きなかったらしめたものです。もう必要ないかも知れません(小児ぜんそくが治った)。ただ、天候や体調の悪化に備えて、お薬の予備は常に持っておきましょう。逆にお薬を忘れたり減らしていくと、1週間も経たずにまた発作症状が出る場合は、まだお薬が必要ということです(やめるのはまだ早い)。この1ヶ月、1週間というのを、大まかな目安として覚えておいてください。
 
【薬以外で気をつけること】
1.ダニ対策
喘息のこどもはまず、ダニやハウスダストに対する過敏性を持っているので、できる限りそれらの少ない環境にします。すなわち、カーペットはできるだけ取り除き、寝具をよく洗ったり日干しした後、掃除機でよくダニの死骸を吸い取ります。部屋を常に高温多湿にしているとダニの繁殖を促進するので、時々換気を行ないましょう。空気清浄機も有効です。
 
2.生活と運動
十分な睡眠をとり規則正しい生活をしてください。運動は水泳が一番よいとされています。ホコリのない湿度の高い空気で、呼吸を調節して肺を鍛えることができるからです。
 
【状態の把握】
1.喘息手帳
毎日の発作の状態や現在使っている薬を書いてもらいます。診察時に自宅での状態が一目でわかるので大変便利です。また、日記をつけることによって、本人も経験が蓄積され、自信を持って喘息の管理、応急処置ができるようになります。昨年の同時期と比較することもでき、励みになります。
 
2.ピークフローメーター
力いっぱい息を吐いた時の息の速さを測る簡単な器具です。1日2~3回測定してもらい、まず、自分のベストの値を知っていただきます。発作が起きるときは自覚症状より先に、このピークフローの値が落ちるので、吸入、服薬などの応急処置が手早くでき、発作を予防できます。
 
3.聴診器
咳やゼイゼイ音が聞こえた時、それが発作なのか、単に鼻水や痰がのどに絡まっているだけなのかわかりにくいことがあります。こんな時でも聴診器を使うと、慣れてくるとわかるようになってきます。
 
【受診のタイミング】
小児ぜんそくは、小学生になるまでに治ります、治しましょう。そのためには、お薬を毎日続ける必要があるため、お薬がなくなったら来院して下さい。調子が良かったら、保護者の方だけの来院でもかまいません。調子が良くなれば、来院の間隔がどんどん空いてくると思います。もう一度、ぜんそくの治療で一番大切なことを思い出してください。それは「発作をおこさないこと、もしおこしても出来るだけ早くおさめること」です。薬を続けているのに発作が出そうになったり出てしまったら、あらかじめ指示しておいた薬を飲んだり、吸入をしてください。それでも発作がおさまらなければ早めに来院してください。ただし、大発作のときは余裕はありませんので、直ちに来院してください。度々発作が起こるようであれば、お薬の種類や量の変更が必要ですので、もう一度ゆっくり検討いたしましょう。

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角丸

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