感染症編
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナとは
ヘルパンギーナとは少し変わった名前ですが、いわゆる典型的な「夏カゼ」のことです。ほとんどが5歳以下の乳幼児期に、主としてコクサッキーウイルスに感染して起こります。潜伏期間は2~5日で、飛沫や便から感染します。その名のとおり夏に多いのですが、まれにそれ以外の季節でも起こります。コクサッキーウイルスにはいくつか種類があるため、同じシーズンに2回以上かかることもあります。
症状は?
他のウイルスによるカゼ(上気道炎)の時は、咳、鼻水などが、しばらく続いた後に、熱が出ることが多いのですが、ヘルパンギーナの場合は突然の高熱で始まります。そして、のどの痛みが特徴で、ひどい場合は、飲んだり食べたりできにくくなります。痛みを訴えることができない乳幼児では、よだれが多く、食事がとれず、機嫌が悪くなります。
診断は?
保育園などで集団発生することが多いので、その情報が参考になります。発熱の割に咳、鼻水などの症状が少なく、頭痛や体の痛みを訴えることがあります。冬のインフルエンザの症状によく似ています。のどの奥の方に、数個の水疱やそれが破れて赤くなった斑点が見えるとほぼ間違いありません。ただ、発熱してすぐ来院されると、この「のどの特徴」がまだはっきりしていなく、診断を保留して様子を見ていただくことになります。初診の時と再診の時で、「のどの様子」がずいぶん変わっています。
よく似た他の病気
① 手足口病
これも夏カゼの一つで、同じくコクサッキーウイルスやエンテロウイルスが起こします。その名のとおり、口の中だけでなく手や足にも水疱が出ます。お尻や、まれには全身に水疱出ることもあります。ヘルパンギーナの場合は、水疱はのどの一番奥にかたまってあるため、大きく口を開けないと見えませんが、手足口病の場合、水疱は口の中全体に散らばっていることが多いです。しかし、実際には、はっきりと区別できないことも多く、ヘルパンギーナの中で体の他の部分にも水泡が出た場合を手足口病と呼ぶという解釈でよいと思います。
② 単純ヘルペス感染症
これも口の中に水疱ができ、手足口病よりもさらに広く口の中に散らばっていることが多いです。そして、時間がたつと歯茎が赤く腫れ、歯磨きすると血が出るようになるとはっきりわかります。
③ 突発性発疹症
突然の高熱で発症するのは、ヘルパンギーナとよく似ています。のどの奥に永山斑と呼ばれる赤い斑点が見えることがありますが、ヘルパンギーナの初期と見ただけでは区別ができません。熱が下がって、全身に特徴のある発疹が出てくると確認できます。
治療と注意点
熱は短い場合には1日で下がりますが、5日くらい続くこともあります。ウイルスそのものに効く薬は残念ながらありません。高熱の場合は熱さましを使ってもかまいませんが、平熱まで下げる必要はありません。熱さましで下げた熱はまた上がってきますので、熱が下がっている間に食事と睡眠をとらせましょう。高熱とのどの痛みのために食事や水分がとれず、脱水状態になりやすいので、意識的に水分をとらせることが必要です。食事は豆腐、おじや、ゼリーなど、刺激の少ない軟らかいものがよいでしょう。口内炎用の塗り薬は有効です。また、脱水症になっているときは点滴が有効です。通常は時間さえ経てば特に問題なく治るのですが、嘔吐を繰り返したり、ひきつけた場合は髄膜炎の合併が考えられます。また、稀に心筋炎を起こして心不全になることがあり得ます。息苦しくなったりぐったりして動かなくなったら要注意です。また、熱が5日以上続く場合も、最初の診断が間違っていたり、細菌の感染を合併している場合がありますので、おかしいと思ったら早めに再診してください。熱が自然に下がって元気になったら、登園してもよいでしょう。