院長からのメッセージ
感染症からは逃げきれず
昭和の終わりに小児科医になって40年近くが経とうとしていますが、今、診療の現場で、かつて全く経験しなかったことが起こっています。あらゆるすべての感染症が、一気に子どもたちに襲いかかっているのです。特に驚くべきことは、真夏なのにインフルエンザの集団発生が起きています。新型コロナウイルスの集団発生も止まりません。RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、ヘルパンギーナ(手足口病)など、すべてが一緒に流行中です。「今、何が流行っているのですか?」と問われると、「全部です。」とお答えするしかありません。症状の程度は様々ですが、中には重症化している人もいます。
思えば、約3年前に新型コロナウイルスが到来して、マスク着用、手洗い、うがいなどが徹底された結果、ほとんどすべての感染症が激減して、小児科外来がガラガラ状態となりました。小児科医としてはちょっと寂しいような気持になり、感染症はその気になれば、簡単に制圧できるという幻想を抱きました。それが今年の春以降、新型コロナウイルス感染症の位置づけが変わった結果、皆さんいっせいにマスクを外し、手洗い、消毒なども怠るようになってきました。3年間かけてすべての感染症に対する抵抗力(免疫)が落ちていたものですから、またウイルスが入り込んでくる隙をつくると、ひとたまりもありません。私は従来から、予防接種を可能な限り受けた後は、発症しない程度に少しずつウイルスや細菌を体に受けていくことが理想的だと思っていましたが、それが正しかったことを確信しています。極端から極端への急な変化はよくないのです。
地上に生活している限り、ウイルス、細菌などから完全に逃げ切ることはできなかったのです。それらと共存していかざるを得ません。予防接種を受けた後は、過度に感染を恐れずに、それらと上手に向き合っていくことが大切です。例えば、私自身の例をとってみれば、日常の診療において、無マスクでの咳やくしゃみの顔面直撃はさすがに恐ろしいですが、マスク越しの患者さんからの少量の飛沫なら大歓迎です。天然のワクチンですから。
どのような感染症でも、発症初期には区別できませんのでご注意ください。日にちが経過するにつれてそれらの特徴が出てきます。特長が出ないうちに治ってしまえば、それらはカゼということになります。カゼは罹ることによって、罹りにくくなっていくものです。
症状は、個人の特徴や病原体によって随分異なりますので、これはちょっと普通でないなと思われたら、遠慮なく受診ください。その時、直ちに明確な回答は出せないかもしれませんが、何らかの方向性は示せると思います。
さて、一般に感染症は冬場にかけて増加していくものです。通常なら一番感染症が少ないはずの8月、9月にこれだけ多くの感染症が流行しています。この冬はどうなるか、全く予想ができません。取り越し苦労に終わるかもしれませんが、個人的にも社会的にも、最大限の警戒が必要と思っています。何せ、かつて誰も経験したことがないことが起こっているのですから。