症状編

心雑音

「心雑音が聞こえます」というと非常に心配されることが多いのですが、いつ、どのような状況で指摘されたのかが重要で、過度に心配されることはありません。私は医者になりたての頃、「雑音のない心臓病の方がずっと怖い」と指導されたことが頭に残っています。心雑音とは、通常のトントンという心臓の脈打つ音と音の間に、連続した異常音が入っているということです。子どもでは脈拍数が多いのと、皮膚と心臓の間の筋肉や脂肪が大人に比べて少ないので、血液の流れが音となって聞こえやすいです。したがって、乳幼児健診や学校健診、外来での診察時に、たまたま心臓に雑音が聞こえることは決して少なくありません。全く症状がなく、いつも聞こえるわけではない心雑音は、ほとんどが心配のないものです。時を改めて、診察や健診の度に何度か聴診してみます。いつも聞こえているようであれば、一度心臓の超音波検査をしてみます。また、初回でも明らかな異常雑音は心臓の超音波検査をします。安静にしているだけで、全く体に負担のない検査です。心臓には4つの弁がありますが、そのうちのどれかに逆流があったり狭くなっている場合、もしくは心臓の中を仕切っている壁に穴が開いている場合に雑音が聞こえます。程度の軽い先天性の心疾患は、乳児健診時の心臓の雑音や学校健診時の心電図によって初めて見つかります。もし、先天性の心疾患が見つかれば、多呼吸、発汗、疲れやすさ、体重増加不良、チアノーゼなどの症状に注意を払い、経過を追いながら手術やカテーテル治療の必要性、時期を検討します。その間、肺炎、気管支炎など呼吸器の感染で心不全となることがあるため、カゼをひかないように特に注意がいります。また、歯が抜けたり、歯の治療をした時などには、血液中に細菌が入り込んで心臓に感染し、重症になることがあるため、抗生剤をしっかり内服することが必要です。乳幼児では、シナジスというRSウイルス感染の予防注射が可能です。
 
以下に子どもの日常診療で、よく経験するものを挙げておきます。
 

【機能性(無害性)心雑音】

心臓の動きの活発な乳幼児期に多く、特に、熱が出たりして心拍が速い時によく聞こえます。音の質もビュンビュンと弦をはじいたようなソフトな音ですので、慣れてくると見当がつきます。生理的なものなので、まったく問題がなく、成長すると消えていきますが、心臓の病気によるものかどうかはっきりしなければ、超音波検査を受けたほうがよいでしょう。

 

【心室中隔欠損症】

左心室と右心室を隔てている壁に穴があいている病気です。左心室は体全体に血液を送り出さなければなりませんので、当然高い圧力がかかっています。これに対して右心室は肺にだけ血液を送り出せばよろしいので、圧力も低くすみます。この壁に穴が開いていますと、血液は高い圧力の左心室から低い圧力の右心室の方に壁に開いた穴を通って押し出され、このとき雑音が発生するのです。穴が小さくて、かつ、大動脈弁の動きをじゃましていなければ、何もせずに様子を見ます。穴の開いている位置や大きさにもよりますが、2~5歳くらいまでに穴が自然に閉じることが多いのです。しかし、この穴が大きい場合は呼吸数が多く、汗をよくかき、食欲が落ちて元気がなくなり、体重が増えなくなります。そしてついには、肺に大量の血液が流れるため、肺が傷んでしまいます。こういう場合はできるだけ早く手術やカテーテル治療が必要です。
 

【心房中隔欠損症】

左右の心室の上にはそれぞれ左右の心房が乗っかっています。この左心房と右心房を隔てている壁の間に穴が開いているのが心房中隔欠損症です。左心房と右心房の圧力の差は左右の心室の差ほどではありませんが、血液がこの穴を通って圧力の高い左心房から右心房に流れ込みます。そして徐々に肺を流れる血流が多くなって、肺が傷んできます。この症状は徐々に進行しますので、こどもの時はほとんど症状がなく、大人になってから息切れ、不整脈などが出ることがあります。心雑音も無いか極めて弱いため、乳幼児期には発見されないことが多く、小学校や中学校の心電図検査で不完全右脚ブロック(右心室の興奮収縮が左心室の興奮収縮より僅かに遅れていること)という異常が見つかって、超音波検査の結果、発見されることが多いのです。小さい穴なら自然にふさがる可能性もありますが、心室中隔欠損症と比べてその確率は低く、特に穴が大きい場合は子どもの時に手術やカテーテル治療した方がよいとされています。

 

【大動脈管開存症】

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時は、肺で呼吸する必要がないため、肺には血液はあまり必要なく、肺へ向かうべき血液のほとんどが大動脈管という管を通って全身へと迂回します。生まれた後もこの管が閉じないで残ると、この管を通って、血液がお腹の中にいる時とは反対に肺の方に向かってたくさん流れ、肺の圧力が高くなります。管が細い場合は、症状はありませんが、太い場合は心室中隔欠損症と同じく、呼吸数が多い、体重が増えないなどの症状が出て、放置すると肺が傷んでしまいます。乳児期以降では自然に閉じる可能性が低いため、ころあいを見て手術かカテーテルで管を塞ぐ必要があります。
 

【ファロー四徴症】

心室中隔欠損症、大動脈騎乗(大動脈が左右の心室にまたがっていること)があり、肺動脈が細く、右心室が大きくなっています。発作が起ると、肺へ行くべき酸素の減った黒っぽい血液がもう一度全身に回るためにチアノーゼが出て、座り込んでしまいます。呼吸困難、けいれん、意識消失、突然死も起こる可能性があり、手術が必要です。

 

【肺動脈(弁)狭窄症】

右心室から肺の方へ流れ出る肺動脈が狭くなっていますので、右心室に負担がかかってきます。軽い場合は症状もなく、生活の制限も必要ありませんが、程度が強いものでは息切れ、疲れやすさ、むくみなどの症状が出ます。程度の強いものは手術かカテーテル治療が必要です。

 

【僧房弁閉鎖不全症】

上で述べた心雑音はすべて、心臓が収縮するときに聞こえるのですが、これは心臓が拡張するときに聞こえます。実際聞いてみると、ちょっと雑音の出るタイミングが違います。左心室から全身に送り出されるべきはずの血液の一部が、左心房に逆流しています。程度の軽い場合は無症状ですが、程度がひどくなると息切れなどの症状が出ます。

 

【心筋炎】

今まで、全く心臓病の疑いのなかった子どもが、カゼ症状を引き金に、ぐったりして息苦しさを訴えます。心雑音だけではなく不整脈も起こしています。早く発見してあげないと命にかかわります。

コンテンツ

角丸

アクセスカウンター

  • 2359576総閲覧数:
  • 332今日の閲覧数:
  • 482昨日の閲覧数:

Copyright(C) 2014. YAMATE CLINIC.Allrights Reserved.